《ウルトラマンZ(ゼット)》監督ローテの奇跡*なにげに「まだまだ終わらない」シリーズ化してます(笑)
以下、ネタバレありです、独自解釈による偏見の酷いものとなっております(笑)どうか、ご了承ください。製作者などの敬称も略とさせていただきます。
登場人物
⚪︎ナツカワハルキ/ウルトラマンZ 平野 宏周(ひらの こうしゅう)/畠中 祐(はたなか たすく)
⚪︎ヘビクラショウタ 青柳 尊哉(あおやぎ たかや)
⚪︎ナカシマヨウコ 松田 リマ
⚪︎オオタユカ 黒木 ひかり
⚪︎イナバコジロー*バコさん 橋爪 淳
⚪︎クリヤマ長官 小倉 久寛(おぐら ひさひろ)
⚪︎カブラギシンヤ 野田 理人(のだ りひと)
⚪︎ウルトラマンゼロ 宮野 真守(みやの まもる)
⚪︎朝倉リク/ウルトラマンジード 濱田 龍臣(はまだ たつおみ)
⚪︎ベリアロク 小野 友樹(おの ゆうき)
*青字は声優さん。キャストの振り仮名は、ここで書いている人が一瞬でも読むのに悩んだ俳優さんに振らせていただきました。
監督の独断考
当記事は『ウルトラマンZ』放送終了から、ほぼ1ヶ月経過後の考察になります。
2021年1月現在の考えであることを、ご了承ください。
今後、考え方の変更というより「思考の足りなさ」は痛感する時期が来るでしょう。だから先に「逃げ」を打っております。
ハルキとゼットさんの勇気から何を学んだんだ!とお叱りを受けるセコさであります。しかし根の小心さはなかなか変わるものではありません。
もちろんこれから人としての成長には励むつもりではありますが、少しさえ叶うかどうかは薮の中であります(笑)。
けれども、「逃げ」を打つようになった理由は存在します。
これから以下で述べる「監督の個人的感想」において、変遷した評価を思い出せば、現時点と断らずにはいられないのです。
田口清隆
ニュージェネどころか、日本特撮界の大黒柱へ駆け上りそうな田口監督です。
実はスーパー戦隊のメイン監督へオファーが来ていた!
もう驚くべき事実に加え、『ウルトラマンZ』が入っていたから断ったとする件りに、下手すれば『魔進戦隊キラメイジャー』やっていたかもしれない!
普段なら、もしやっていたらと夢が広がるとしたいところですが・・・、
ゼットさん、サイコー!!!とする現在においては、あぶね、あぶね〜であります。
タイミングを間違えていたら、2020年度いやそれどころか『ウルトラマンZ』自体が流れてしまっていたかもしれない。
スーパー戦隊の前に『ウルトラマンZ』が決まっていて良かった!これが現在の偽らざる心境であります。
もっとも円谷側も、かなりの好待遇で迎えています。
好待遇といっても金銭面はどうか知りませんが、製作面における条件はかなり呑んだようです。
防衛軍の設定は、どうやらプロデュース陣営はイヤがっていたようですが、1度セッティングしてしまえばむしろ予算はかからない、と田口監督側から説得したようです。
個人的には従来の形にこだわらなくても、と思っていたら、田口監督の方が前を行っておりました。
防衛軍と聞いて、戦闘機やタンク形といった現実的な軍用兵器のファンタジー系と予想しておりました。
とこが、もっとファンタジーだった(笑)。
まさかのロボット軍団!もしこのネタで押し切ってくれていなかったら、愛嬌ありながらカッコいいといった相反する魅力を兼ね備えた「セブンガー」に出会えなかったわけです。
素晴らしき発想力というか、企画力と評するべきなのか。
そしてシリーズ構成には現場を仕切る監督と、監督が連れてきたライターへ任せます。
製作陣営の英断もさることながら、田口監督に対する信頼が可能にしたのではないでしょうか。
田口監督の活躍は、クリエイターとしての能力はもちろんのこと、プロデュース的な感覚も優れているようです。
ただ作るだけでなく、かつて出入りした樋口組や東映の特撮研究所との交流を絶やさず、幅広い人脈を保つことで作品に繋げている節が見えます。
映像作品は、その特質から人を動かす能力にも長けていなければなりません。
吹原 幸太の才を見抜き、連れて来られるだけの信用を築いていたからこそ生まれた傑作です。
円熟期に入った田口監督をメインに座ったことで、作品の土台はこれ以上にないほど魅惑に満ちたものとなりました。
けれどもテレビシリーズは、しかも特撮という手間のかかる作業を要する作品は、1人の監督が担当できる本数は決して多くありません。
『ウルトラマンZ』において田口監督が演出を担当した本数は「7本」です。25話中において、もっと厳密に折り返し13話の総集編的内容を抜かし、全24話と考えたとしてもです。
担当できるのは、全体の1/3にも届きません。
どうしても作品全体と考える時、傑作とするには他の監督の力量が不可欠となります。
『ウルトラマンZ』の場合は、担当する監督の個性に合わせた実に良い配置がなされておりました。
坂本浩一
映画『仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ』に、監督「坂本浩一」の真髄を観た気がしました。
やはり、この人は等身大ヒーローの扱いが上手い。
前年に公開された『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』で坂本浩一という名を初めて意識した作品と並べて、そうした印象を持ちました。
2010年代に入ろうという時期において、もはやミニチュアを中心とした特撮は諦めています。
これからは合成を中心とし、巨大ヒーロー「ウルトラマン」も等身大キャラとして魅力を訴えていくしか生き残れない。
東宝はもはや特撮部門は放棄しており、円谷も一族のゴタゴタから再建できるか、まだ未知数です。
坂本監督が『ウルトラマンギンガS』を担当すると知った時は、小気味良いアクションを期待していました。
ウルトラマンゼロの誕生から伺えるように、キャラ作りは抜群です。
これは裏を返せば、坂本監督の登用に従来の特撮はすっかり諦めの心境へ至ったわけです。
ウルトラマンもライダー化していくしかない、といった感じです。
ところがこの『ウルトラマンギンガS』は、意表を突いてミニチュアワークを見せてきます。現在のニュージェネ作品に比べれば、まったく乏しい限りですが、それでも精密に作られた街に、小物の動かし方など、おっ!となる場面を見せてきます。
録画を消去できなくなります。
それから3年振りにメイン監督となった『ウルトラマンジード』においては、すっかりミニチュアの街並みが当たり前となりました。
坂本監督は、ミニチュアワークを主とした巨大特撮も撮れる。自分の不明を恥じていたところで、あるインタビュー記事を読みます。
田口監督から学んだことは多かった、といった内容で答えています。
これを見た時から、坂本浩一は優秀な演出家から尊敬にも値する監督となりました。
ざっくり申させていただければ、特撮関連の書籍などを読むとです。
いかに自分が貢献してきたか、喧伝する輩は多い。業界にいれば、力になった部分もあるでしょう。しかしながら尊大としか思えない評価を自分に与える姿を散見します。
自分に足りなかったものを認めて、自分の糧をしていく。
言うは易しですが、自分のやり方に固執しがちな業界です。一般的にも当てはまる事例は多いです。
常に前進していくために、謙虚に自身を受け止め、考えていく。
なかなか出来ることではありません。
そして『ウルトラマンZ』においては、他の監督がやらないシーン作りを観せてきます。
ユカ役の黒木ひかりがピックアップした真下からのアオりで、しかも移動まで果たす一連のしカットは、本当に凄かった。田口監督の前で取り上げるくらいですから、それだけ素晴らしかったわけです。それかもしくは黒木ひかりが天然だったか、どちらかです(笑)。
ゼロを生み出してから、ウルトラマンシリーズを10年以上も演出し続けながら、坂本監督はここに来てもまだ前進中です。
メインでもおかしくない坂本監督が、最終回を含むエピソード直前の盛り上げ回を担当する。
「坂本ー田口ライン」で構成されたクライマックスが、素晴らしくならないはずがないのです。
けれども『ウルトラマンZ』における監督ローテの絶妙さは、その前の2人にまで求めてこそかもしれません。
武居正能
武居監督を評価する時『ウルトラマンR/B』のメイン監督だから甘くしているんじゃないか、と言われれば、その通り!と胸を張って答えます(笑)。
この武居正能は、ニュージェネとされるシリーズ開始当初は監督にすらなっていません。ずっと助監督です、他の現場でも同様です。
ウルトラマンがシリーズ化したから、監督になる機会を得た演出家です。
純粋にニュージェネから生まれた監督としても、いいかもしれません。
助監督時代が長かった武居監督です。
けれども苦労が報われ『ウルトラマンオーブ』で監督デビューを果たせば、その後ついに田口・坂本以外がメイン監督となる偉業を達成しました。
しましたが『ウルトラマンR/B』硬派な表現から程遠い、実に挑戦的な作風で攻めてきます。放送開始当時は、けっこうヤバくないかと思わせてきたほどです。
捉え方によっては「尖りすぎ」な演出をかましてきます。観る人の選別を強いるように、内包するテーマを隠して、なかなか見せてくれません。
温厚そうに見える人ほどこそ、内心で考えていることは猟奇的だったりするパターンです。
油断していると殺られてしまいそうです。
平気で危ないことをする武居監督ですが、ウェットに富んだ演出を得意とします。
情感を描かせたら随一な武居監督に、第20話「想い、その先に」これから重要な位置に立つバコさんの内面というべき回を任せました。
クライマックス前の地ならしとなるエピソードを、武居監督に任せたローテには絶妙さを感じます。
そしてシリアスな本筋とは別に任せるとしたら、これほどの適任はいないといった監督が、さらにその前に就きます。
辻本貴則
『ウルトラマンタイガ』が始まる際に、監督の口々から特撮の撮影環境は、まだまだながらも整ってきた感触があることを漏らされてきました。
撮影環境が良い感じになってきて、1番の躍動を見せたのは辻本監督ではないかが、個人的な感覚です。
はっきり言えば、変質的な感性が特撮において表現可能になってきた!といったところです。ほめてますし、個人的にも喜んでおります(笑)。
実績も積んできた辻本 貴則は、いずれニュージェネのメイン監督をやるようになるのだろうか?
それはちょっと怖いモノ見たさに近い感覚であることは否めません(笑)。
ただでさえタイガで、けっこうしゃべる怪獣「ゴロサンダー」の声を当てているだけでも悪ノリ感があるのに、ゼットでは「ケムール人」まで声をやったりします。
乗らせたら手が付けられない監督に、ウルトラQの続き回に、ウルトラマンエース客演の回を任す。
ウケを狙うなら、まさにこの監督しかいない!といったところです。
興味を引きたい中盤の後半における話題性を持つ回を、辻本監督へ渡したのは大正解でした。
絶妙だった監督ローテ
各エピソードで構成されるテレビシリーズは、全体をまとめる作業は大変です。けれども作品の出来の肝となります。
時には、全体をまとめられなくても良い作品になったりしますが、やはり傑作テレビシリーズとするには、全体を貫き通す筋は必要不可欠かと思われます。
ストーリーや設定の出来もさることながら『ウルトラマンZ』の場合は、力量の高い監督をそれぞれの個性に合わせた配置がさすがでした。
監督のローテーションは、まずスケジュールの都合から起こされます。
そしてうまい具合に予定が空いており、かつ適材適所でハメ込めたら天の配剤に近い。
ローテを組んだ者が適正を見込んで立てていたとしたら、それは慧眼としか言いようがない。
そして監督ローテーションの全てが上手くハマった『ウルトラマンZ』という作品です。
ニュージェネにおいて実力もさることながら新しい風を感じさせてくれた田口・坂本・武居・辻本が、中心になって回ってくれたことが幸いしました。
そして『ウルトラマンタイガ』で監督デビューとされるものの実際は総集編の担当であり、実質のデビューは『ウルトラマンZ』となった越知 靖。やりたいことを全てぶつけた、とする演出は今後に期待を抱かせるに充分でした。
素晴らしき監督たちの見事な起用。
『ウルトラマンZ』が傑作へ仕上がるうえで、奇跡とも言えそうな要因でした。