劇場版『Fate/stay night [Heaven’s Feel]』III.spring song【ネタバレありの感想】
以下、取り上げる作品のネタバレありです、独自解釈による偏見もございます(笑)どうか、ご了承のほどを。製作者などの敬称も略とさせていただきます。
姉と弟
冒頭から、衛宮邸に出現した黒い赤い縦縞が入った異様な間桐桜。士郎や凛、ライダーを圧倒すれば、イリヤは素直に付いていくことを承諾する。
イリヤが付いていくことは聖杯の器として利用されることであり、消滅を意味します。
去り際に士郎へ「お兄ちゃん」と呼んだシーン。いきなりこんなところに、ぐっときてしまいます。
『Heaven’s Feel(以下、HF)』を観るに当たって、実は姉妹であった凛と桜の関係は描かれるだろうとは思っていました。
実際、劇中で中核と為したのは、凛と桜の姉妹による相克及び葛藤であったかもしれないくらいです。
クライマックスにおいて、対峙した凛と桜。
桜の「もし」間桐家に養子へ出されずにいたら、と凛にしかぶつけられない感情を迸らせる。
冒頭で自らを「狂ってた」とした桜だが、そもそも狂っていたら自分では言わない。懸命に己れを偽らなければならないほど、散々に痛めつけられた姿が悲しい。
同じ親に生まれながら、どうしてこうも扱いが違ったのか。桜が叫ぶはもっともと思いつつも、凛が背負っていた宿命も計り知れないもの。妹の方ははっきり痛ましさが分かるものの、姉の方は心を殺さなければならないという表に出てこない苦痛とくる。
凛の苦痛は、なかなか外からは窺い知れない。だから桜が姉妹でどうしてこうも不公平なのかとする訴えを斥けたと思いきや、肝心なところで・・・11年間も離れていても姉だった気持ちを忘れられずにいた。
凛は、イイ女であります。
この凛と桜といった姉妹は物語りにおいて、ウェイトを占めることは鑑賞前から予想はしておりました。
だから士郎とイリアの兄妹に関しては、不意を突かれた感動です。
ここで書いている者は、Fateシリーズはアニメ作品のみであります。ゲームはやっていないし、積極的に内容を確かめることもしていません。
あくまで、アニメ放送を通してのみです。先を知ったらつまらない、という思いと、設定等の深掘りは面倒だからしないといったいい加減さで付き合ってきました(笑)。
それでも「Fate」と冠されていれば、全てを観てきてはいます。愛着あるシリーズです。
とはいえ、ハマり出したのは『Fate/Zero』から。虚淵玄の小説も良く、特に切嗣の最後を記す一節の感動は、今も褪せることがありません。
ここから始まったFateは必ずチェックですから、当然『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』シリーズも含みます。きっと映画単体でも楽しめる内容になっているはず、と『劇場版Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 雪下の誓い』へ何も知らない友人を騙して連れていったら、不評を被ってしまったことは良い思い出です。
あらゆる顔を見せられてきたイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。HFにおいては、父に捨てられた想いを拭いきれず、養子としていた士郎に複雑な感情を抱いている。
HF第三章においては強大な力を手にした桜に、イリヤは士郎を救うために諦めて従うまでになっている。けれども士郎が助けに来た際のやり取り、逃亡中に囮りになることを士郎に告げられるシーン。
父に捨てられたと思い込ませられ、聖杯戦争で勝利するためだけの教育を受けさせられていたイリア。桜に通じる周囲の思惑によって、歪められてきたこれまでの人生である。
だから常に我が身は捨てる士郎が、全作品中で初めて「生きたい」と示した意思を叶える行動を取ったイリヤに感動せずにはいられない。
ファンならとっくに分かっていた事実。
見てくれに兄妹と捉えてしまうが、実は年齢的にイリヤが上であること、姉として、士郎の生存を願い、世界の崩壊を止めるべく向かっていく。
本当は、姉と弟。ずっと思い至らなかったおかげで、感動がひとしおとなりました。ボンクラもたまにはいいもんだ、と思えた観賞後の感慨です(笑)。
映画館はいいよ
サーヴァントのスキルを思う存分に発揮されたバトルは、シリーズ通して目玉となるシーンであります。
特に黒いセイバー=セイバーオルタ対アーチャーの腕を宿した士郎&ライダー戦は、相も変わらず「すげーな」なバトルを展開です。
けれども最後の最後で、士郎の前に立ち塞がる言峰綺礼。上着を脱げば格闘家ばりの隆々とした体格です。
一方の士郎は、アーチャーのスキルを発動させてしまったため、身体から刃を生やしてしまっている。いつまで身体が保つのか、といった具合です。
こんな士郎と言峰の、そしてHFにおける最後のバトルシーンは、殴り合い。派手さとは無縁な肉弾戦が、却って痛みを届けてくるようです。なんて渋い、けれどもファンタジー要素を排したバトルで、これが人間の思惑によって生じた悲劇であったことを確認させられます。
だから決着は素手であったことに、非常に意味を感じます。
振り下げだしたら、キリがないFateシリーズ。
言峰の過去も描かれ、バーサーカーにもあれば、重い宿業をいずれのキャラも背負っていることを知らせてきます。
ストーリーのルートごとでは、描かれない人物も多く存在するなか、HFによって全てのキャラクターを網羅できた気になりました。
2011年の『Fate/Zero』でハマってから、ほぼ10年。コロナ禍で公開が半年ほど遅れで、ようやくに辿り着いた『Fate/stay night』最終章の最終作。最後まで観られて本当に良かったです。
しかも劇場環境は最高でありました。
まだ注意が必要とされるコロナ禍が、座席の前後左右を空けます。独り者としては、理想とする状況な気がしてなりません。
劇場へ1人で行くのは、なんとなく気が引けるという方もいらっしゃるでしょう。自分もそれに近いタイプであります。
そんな貴方に今こそチャンス、と言えそうな劇場環境です。換気にも配慮されているようであれば、街中よりも安全かも知れません。これはあくまで好きな作品の興収は上がって欲しいと願う者の、個人的偏見に満ちた意見であります(笑)。