【ネタバレ感想】映画『ビブリア古書堂の事件手帖』

良かった、悪かっただけで映画を判断していた年頃があった。今思えば、いい悪いというより、好き嫌いで計っていたわけである。

それなりにいい歳になれば、悪いところもそれはそれで楽しめるようになった。大人になれば寛容になるものである、と考えていたが、ふと気がついた。悪い部分を愉しみにしていないか。どこかダメなところはないか、喜んで探すようになったような気がしないでもない。

ただタチが悪くなっただけかもしれない。なんだかそう思う今日この頃である。

以下、ネタバレありの、独自解釈による偏見もありです。どうか、ご了承のほどをよろしくお願いします。製作者などの敬称も略とさせていただきます。

情報【映画へ入る前に】テレビも語らずには

ビブリア古書堂の事件手帖(ビブリアこしょどうのじけんてちょう)は、三上 延みかみ えん)著書によるミステリー小説が原作に当たります。2011年から刊行され、全7巻に番外編1巻を加えた全8冊です。
メディア展開以前から人気を誇っていました。なので最初の映像化によって部数は伸びたかもしれませんが、人気獲得へ助けられたわけではありません。

最初の映像化。それは2013年1月からフジの「月9」枠で全11話が放送されました。
主人公の女性イメージは黒髪ロングのメガネですが、抜擢された女優はショートのメガネなし。妹は弟へ設定を変えられ、オリジナルキャラクターもわんさか。原作のイメージはどこへやらといった感じです。
ならば振り切った作りをするのかと思いきや、原作の落ち着いた雰囲気は残したいという半端さ。主演クラスの男女の演技も覚束なく、展開運びも明らかに劣るようであれば、良い悪い以前に辛くなる。結局は立て直しも効かないまま終了。
当時はセカンドシーズンも、などという話題も上がったりしたが、こちとら「冗談でしょ」である。

タレント優先もほどほどにして欲しいテレビドラマ化の典型的例となりました。

けれどもおかげで、映画化に対してかなりハードルが下がっておりました。むしろキービジュアルなど窺えば好意的に捉えられます。ちょっと期待しながら臨みました。

【映画】ビブリア古書堂の事件手帖

あらすじ

主人公の男性は、大輔(だいすけ)。幼少時に普段は優しかった祖母から本へのイタズラをこっぴどく叱られてから、活字恐怖症となっている。

その祖母である絹子が亡くなり、遺品整理のなかで大輔のトラウマの原因となった本『それから』を開けば、夏目漱石と田中嘉雄というサインが記されている。

その辺りの事情は取り敢えず古本屋に、といった具合で大輔は「ビブリア古書堂」へ持ち込む。応対に出たのは、栞子(しおりこ)。探偵役を担う存在であれば、本からだけで祖母の絹子の秘めた恋愛を察してしまいます。

さらに深い事情を望む思惑と無職である大輔は、栞子の妹である文香(あやか)が提案してきたアルバイト募集にのっかることにしました。

栞子の元で大輔は悪戦苦闘しながらも新生活を楽しんでいます。ただ懸念といえば、古書市場で知り合ったネットで漫画販売を行っている稲垣という男の存在です。書籍に対する造詣の深さが栞子に付いていけるほどです。嫉妬を覚えるほどです。

「ビブリア古書堂」における最も値が張る稀覯本といえば、太宰治『晩年』アンカットの初版本です。大庭葉蔵なる人物がネットで買い取らせて欲しいと連絡してきています。栞子は断り続けていましたが、段々送信されてくる文面が脅迫じみてきます。古書堂に火を付けるとまでになります。大輔がバイトするきっかけの一つにもなった栞子の怪我は実は石段で突き落とされたものでした。

ついにビブリア古書堂の置き看板に火を付けようとする人物に出くわします。

あと一歩のところで取り逃せば、大輔は命に代えても守るからと『晩年』を預かります。その帰りに襲われて奪われてしまいます。しかしながら栞子が渡したのは偽物でした。本は無事だったものの、大輔は信用されていなかったことにショックを受け、その場でバイトを辞めることを告げます。

大輔が外で食事しているところへ、かつて目が見えなくなると言っていた男が元気な姿で現れます。そいつを問い質すことで『晩年』を狙うは稲垣であり、大庭葉蔵その人だった真実を聞き出します。

その稲垣は、独りぼっちで古書堂に座る栞子の許を訪れます。襲撃とも言える訪問は、文香の機転とやってきた大輔によって、一旦は難を逃れます。

車で逃げる大輔栞子。バイクで追いかける稲垣。海岸端まで追い詰められますが、栞子の「本より大事なもの」という想いから『晩年』は海へ投げ捨てられます。

犯人であった稲垣。本名を知り辿った祖父の名が、田中嘉雄と判明します。それは大輔の祖母である絹子の秘めたる恋の相手と同じ名であり、もしかして稲垣と祖父を同じくする可能性を知ります。

数奇な結末を見た後に、大輔は再びビブリア古書堂で働くことにします。

【正直な】感想

古本屋は映画が似合う。光りの加減を抑え、かつ美しく魅せるはテレビ放送を前提にしない撮影だからこそできます。また街の風景など、映像はとても良かった。キャストもまたハマっておりました。やはりキャラクター色で押すタレントより、作品に寄せるための演技が出来る役者のほうが良い。

原作が持つ雰囲気は踏まえられていたと思います。

但し、内容としては観客を選ぶでしょう。
大庭葉蔵である稲垣の行動は警察が対処すべきレベルにあり、大輔栞子が逃亡において交番なりに向かわない不自然さを感じる観客もいるでしょう。

大輔は預かった稀覯本を奪われておきながら、偽物を渡されていた事実を知らされて怒るままバイトを辞める行動が受け入れられるかどうかもポイントになります。感情移入できないといった段階ではなく拒絶感が湧き上がれば、最後にバイトに戻るとなっても喜べないのです。

そして原作と違って栞子は大事な『晩年』を海に投げ捨てます。本よりも人が大事だとする行動が、果たしてテーマとして適切だったのか。確かに一般的には立派とされる決断も、栞子というキャラクターを殺しかねない行動ではないか。下手すれば、安っぽい倫理観に落ち着いただけの作品と評価されかねない。むしろ海に投擲したのも偽物であれば、栞子の欠点でもあり魅力でもある性格が際立ち、それに脱力しながらも大輔も今度こそ受け入れれば、素直にラストが首肯できた。

原作では、ちょっとした挿話にすぎなかった祖母の若き日の秘められた恋愛が、現代で繰り広げられる本編と同じくらいの比重で描かれています。ストーリーとして見応えはあります。ただこれが「ビブリア古書堂」原作の魅力を追うより、映画としての見どころを別に用意しようとしていたかが分かります。一見の観客に寄った方向性で製作されたためでしょう。
そのためにテレビに続いて映画でも、とため息を吐く原作ファンが出てくることは仕方がないのかもしれません。

散々いろいろ書いてまいりましたが、観て損とは思いませんでした。エンディングロールの凝り方といい、丁寧な創りが為されています。いろいろ文句も言いたくなる、それは映画に限りませんが(笑)愉しみの一つと申せましょう。