【冬目景のコミック】マホロミ 時空建築幻視譚+ももんち

とりあえず最後まで読ませては欲しいと思う作品、特にコミック方面が多いです。
メジャーどころだと『バカボンド』ですか。宮本武蔵はあと佐々木小次郎との対決を残すだけなのですが、もうやめたの?と言いたくなるくらいの休載が続いています。早くここの文章に打ち消し線を入れられる日を待っています。
『ベルセルク』は終わらねぇな、うん、こっちは諦めてる(笑)。

ともかく終了させてくれ、と願わずにはいられない作品を指折り数えていくと絶望感が深くなるので、やめておきましょう(笑)。

今回は時間はかかるけど、最後までいってくれる作者の作品を取り上げます。正直に申しますと、もうちょっとペースは上げて欲しくなる時がありますが、前述の終了が見えない作品を思い出しては己れを戒めるようにしています。

以下、ネタバレ及び独自解釈による偏見(笑)が含まれますことをご了承ください。製作者などの敬称も略とさせていただきます。

【冬目景:その作者の印象と】ラブコメ『ももんち』

作者は冬目 景(とうめ けい)。1992年にコミックバーガー新人漫画賞の佳作受賞でデビューです。
漫画家が出発点です。ここで書いている人は、当初イラストレーターだと思っておりました。マンガも描いているんだ、といった具合です。

冬目景の作風イメージといえば「暗くて陰惨」けれども直接的な描写ではなく、雰囲気で押してくる感じです。囲い込むような圧迫感がいい。
そして張り詰めるなか、ふっと空気を緩めるシーンの差し込みが実に良かったりします。

意外にコメディをいける作者なのかもしれない。そんな時に不定期連載ながらラブコメと銘打った作品が始まりました。

ももんち

ビックコミックスピリッツ誌上にて、2006年から2009年まで不定期連載されました。単行本にして1巻です。

主人公は、美大を目指して浪人中の女の子です。少し変わった言動をするドジっ娘系です。予備校仲間や行方不明の父を待つ実家など、様々な関わりの中で成長していく日々において、好きになる男子も出来ます。その男子に告白することがクライマックスになります。

あとがきから言葉を借りるなら「昔の少女漫画」へのオマージュになります。初めから緩い雰囲気です。主人公の女の子はかわいいです。ただ今ひとつ笑いが起きませんでした。これはたぶんこの作者が見せてきた緊張感で張り詰めるなか、ふと緩む瞬間が好んでいた個人的趣向ゆえだと思います。
初見は作者に対するイメージや期待が強すぎたせいか。今回において読み返したところ最初の「がっかり感」はなくなっておりました。どうやら手放せそうではありません。

マホロミ 時空建築幻視譚

ビックコミックスピリッツ誌上において『ももんち』に次ぐのが『マホロミ 時空建築幻視譚』どうやら建築大学に通う男子が主人公らしい。あまり日常感ある青春ものは、この作者はあまり得意でないのでは、と思っていた頃です。
けれども、主人公が古い建物に触れたら不思議な幻を視るという設定に、謎めいた美少女とくれば期待が高まります。連載が開始されれば、期待通りにおもしろい。
ただ不定期連載(泣)単行本は全4巻となりますが、連載期間としては、5年以上です。けれども現在の漫画家さんならば、特に遅いわけでもないですね。でも待ち望む者からすれば、もうちょい早くです(笑)

【エピソード1】家の記憶

前後篇のまさしく序章です。

主人公は建築科に通う大学生、土神東也(にわ とうや)。メガネをかけた、ちょっと風采は上がらない感じがするものの、ごく普通の男子です。しかしながら、とても有名な建築士の孫というレッテルが貼られています。

大学へ通うにあたり、生前はほとんど交流がなかった祖父の家へ、独り住むことにします。そこで祖母の写真立ての中に隠してあった写真を見つけます。
祖母の若い頃とは思えない、美しい女性の姿です。

この美しい女性と土神は出会います。建築ヲタクの恋人未満といった女友達、円海卯(みつうみ あきら)の頼みで解体前の建物実測へ行った際です。壊れたドアノブを掴んだ際に、不思議な光景が見えてしまう。それを確かめるため、また夜になって忍び込んだ時に現れたのが、祖父が隠していた写真とそっくりな美女です。

後日また、土神が訪れてみれば、あの美女と再会します。どうやらお互い建物の記憶を辿れる能力があるらし。ふたりが手を繋ぐことで、その能力はより鮮明に発揮されるようである。

ここでは、出し損ねた手紙について解決しています。

【エピソード2】祖父の写真

土神の妹が遊びにきます。どうも祖父・父親、そして主人公といった男同志の仲はあまりよろしくないようです。

女友達の円海卯に頼まれて荷物運びをした「洋館付き住宅」そこの主人が、例の美女でした。おかげで名前は、深沢真百合(ふかざわ まゆり)写っていたのは祖母だと判明します。

建物記憶を覗くことで解決する懸案は、置き去られた人形を見つけ送ってあげることでした。

【エピソード3】海の思い出

土神が建築事務所でアルバイトを始めます。
所長は、地引計馬(じびき けいま)。いつもタバコを吸っている、ちょっとだらしがないけれど懐は深そうな男性です。
女性スタッフとして、仲代雪子(なかだい ゆきこ)。少し性格はきつめですが立場上仕方がない、頼りなる人です。

事務所が入っている建物が、アルバイトを始めた早々に解体されるようです。
そこで土神真百合と建物の記憶を覗きます。どうやら海が見たいようなので、事務所の所長やスタッフの協力で映写機による、ここから見えていた海の風景を隣りの建物へ映しだします。

ここで真由里が親戚はいるものの、ほぼ一人暮らしと言っていい生活を送っていることが分かります。

【エピソード4】母の家

土神のアルバイト先である建築事務所のスタッフである「美樹さん」登場です。名前から美女を想像しますが、もっさりした青年でした。フルネームは、長塚美樹(ながつか みき)建築士を目指していますが、家具作りが上手です。

今回は母親と折り合いがうまくいかなかった女性翻訳者が、かつて住んでいた洋館を処分するというお話し。相続しきれないこともあるけれども、何より母親とうまくいかなかった過去を断ち切りたい理由が大きいようです。
そこで土神真百合と共に赴いたことで、女性翻訳者とその母親の間にある思い出を見つけます。それがきっかけで、土地を売っても建物を所有する方向でまとまります。

土神はちょっとではありますが、祖父と父の間にあって気持ちを知ることになります。そして真百合に対しても心が揺れ出します。

【エピソード5】建築学生達

のっけから人が死んでいます。階段の下で動かない死体に、同い年くらいと思われる3人の学生たちが見下ろしています。もろミステリー仕立てのお話しです。

土神は大学生活を満喫しております。満喫といっても、そこは建築学科の学生。個性的な友人たちが増えるくらいで勉強とアルバイトの日々です。
そうした中で、少しずつですが祖父を認めるようになってきます。それは同時に、土神自身が建築士への道により傾いていくことを意味しています。建築設計の学生コンペにも応募するくらいになります。

そのコンペ対象となった大学の図書館。解体対象になるほどですから旧いです。だから真百合を誘って、建物の記憶を覗きます。そこで大学図書館の本を盗んでいこうとする学生が階段から転げ落ち死んでしまう場面が見えます。事故に思えます。しかしながら、止めようとした学生は、本当は押していたのではないかという疑念もまた深いのです。
それは不明となっていたスケッチブックを土神真百合が発見したことで、唯一生存していた当事者の肩の荷を降ろすことになります。

【エピソード6】春雷

このシリーズで最も短いエピソードです。

真百合の過去が描かれています。祖母との会話、土神の祖父との出会いについてです。

【エピソード7】漸の桜

今回の主人公は、土神たちの同級生、石蕗巽(つわぶき たつみ)と言っていいでしょう。上から目線で喋るエリート気質全開のチョー性格悪し、と思わせておくタイプです。実は溢れんばかりに優しいツンデレ系の、愛されキャラです。
ご実家もまた変わられていて、石蕗には荒波が必要だと学生寮へぶちこみます(笑)。
入寮早々に解体が決まった、寮建物について巡る話しです。

今回は真百合は呼びません。土神ひとりで、建物が桜を見たがっていることを慮ります。今回の活躍はその程度です。
なぜなら主役は石蕗だからです(笑)そして学生寮が守られるのは、この石蕗に因るのです。

【エピソード8】彼女の名画座

アルバイト先の建築事務所の所長である地引の許へ、昔のカノジョが現れます。所長に気持ちがある女性スタッフ仲代は普段の強気な態度から想像できないほどショックを受け休んでしまうほどです。意外にかわいい面を見せます。

この地引と元カノジョの思い出が詰まった旧い映画館の解体を巡る話しです。けれどもこの問題は、跡を引き継ぐ息子が建物は壊すものの、新築時に映画館を設置することでまとまります。

どちらかというと問題は、土神真百合の過去を覗けたことです。土神の祖父を真百合が好きだった事実に気分は落ち込み気味です。

【エピソード9】アパートメントハウスの風

記憶が覗ける建物は、古き高層アパートです。戦時中に金物が徴収されるなか、飾られていた風見鶏をある少女が隠したようです。それを回収して、元の場所に付けてあげます。

しかしながらここで回で描かれれる、より大きな問題は主人公たち身辺にあります。

女友達の土神にはっきり恋心を認めながら、真百合の境遇を想いつつ諦めていきます。

土神真百合に告白に近い言葉を発します。そして、建物の記憶を辿る能力は消えてしまったようです。

【ファイナル・エピソード】祖父の椅子

真百合に祖父の危篤が伝えられます。相続も絡む問題があって、何もしないというわけにもいかないようです。しばらく留守をするということになります。

土神は祖父が設計した家が近く解体されることを聞き、複雑な想いを抱えつつも見学にいきます。その家の主だった小説家の老人は、土神の祖父が造ってくれた椅子に座りたいそうです。けれどもその椅子は壊れていました。
土神は自分の手で直していきます。美樹の指導を受けながら、大学とバイトをこなしながらがんばります。がんばりすぎて倒れてしまいます。建築事務所から善意によるクビを言い渡されますが、椅子は真っ当して完成させます。そして、建築士になる意志を固めます。

時間が流れて春が訪れても連絡ない真百合・・・に、「おかえり」と声をかけられる時が訪れます。

【これこそ】終わらなくても良かった作品

壊され消えていく建物に触れることで「想い」を受け取り、叶えていく。いくらでもエピソードが重ねられそうなお話しです。それこそた不定期連載のまま続け、何十巻といってもおかしくないように思えました。誌上媒体もビックコミックスピリッツですから、多くの巻数を連ねてくれてもおかしくない。

つまり個人的に非常に気に入っていた作品なのです。不可思議と日常がうまく溶け合い、とても良かった。ただ残念なのが、脇役たちが魅力的だったので、もう少し活躍を見せて欲しかった。もしかすると冬目景のなかで最も好きになりそうな作品だっただけに、全4巻という短さを惜しんでいます。

しかしながら、作者自身はこの漫画を描くのが「ムチャクチャ楽しかった」そうなので、読者の声が高まればまた、と期待してしまうのです。