【市川準監督】東京兄妹

やはり年齢を取ってから見ないと分からないものもある。
今回、手にした理由は「梶浦由記」と「手塚とおる」が第一のキーワードである。

だが映画好きの友人から『市川準』の名前は聞いていた。どこかで何かしら観る機会は得たいと思ってはいた。亡くなって、もう10年も経つ。あまりぐずぐずしていてもいけない。

今回は、真面目に映画を取り上げます(笑)

以下、ネタバレです、独自解釈による偏見もあります(笑)どうか、ご了承のほどを。製作者などの敬称も略とさせていただきます。

【東京兄弟】概要と時代背景

東京兄妹』は、1995年1月14日に公開されています。
この3日後に阪神・淡路大震災があり、ほぼ2ヶ月後には地下鉄サリン事件が起きています。
社会不安が大きかった年に、東京のある日常生活を描いた作品がどういった役目を果たしたか。キネマ旬報では第2位に、読者選出で8位です。どこで公開していたんだ、というくらい地味な作品ですが心に沁みる人は数多くいたのではないのでしょうか。

昭和を思わせるテイストで平成初期の東京下町です。時代設定自体が古いのかもしれません。撮影当時の光景はまだ同じ姿のまま見られるところが多いようです。ただし、この頃はまだパソコンはおろか携帯電話も普及していない時代です。

一昔前という空気が漂っています。それを懐かしいと感じるか、古くて付いていけないと感じるかで、この作品に対する見方が変わってくると思います。

そして監督市川準の映像は、ほとんどフィックスによって撮られています。小津安二郎へのオマージュとされるほど、固定カメラの映像の積み重ねになっています。

この映画はまさしく「純文学の世界」の範疇に入るようです。

【東京兄弟】ストーリー

冒頭でいきなりヒロインの入浴シーンがあって、どっきりです。でも18禁ではありません。芸術のヌードというやつです。

その後、兄妹の日常が描かれます。
兄は窓の高さが道路にある古書店に勤めています。神田の古本屋だと思われます。両親は亡くしているようで、高校生の妹がいます。
二人の日常生活が淡々と描かれていきます。兄は亭主関白的に振る舞い、妹はそれに従う。旧態然とした夫婦みたいです。
妹は無事に高校を卒業します。写真ラボの店で働き始めます。

兄には恋人がいたようです。どうやら妹が20歳になるまで待ってくれと言っていたようですが、待てないということでお別れされてしまいます。

妹のほうは写真屋にくるお客だった人が兄の友人であることをきっかけにデートをするようになります。同棲を始めるに至ります。兄は戻ってくるように連絡しますが、聞き届けられません。

同棲相手であった兄の友人が急死します。

行き場を失った妹は帰ってきます。それを気遣いながら受け入れる兄。こうして再び以前の日常へ還っていきます。
けれどもある晩、兄は家の門で足を止めます。それから家から離れていきます。妹は音が聞こえたような気がしてか、顔を上げます。

【東京兄妹】なにが見どころ?

ともかく「冷奴」が食べたくなるかもしれません。映像だけでなく、酔っ払った兄に滔々と語られれば「豆腐って、すげえな」と思うかもしれません(笑)。

妹が恋人が急死して家に帰ってから、どれくらい経ってからでしょう。誰もいない電車でふざけて足を伸ばす妹に、兄も合わせて足を伸ばします。これで本当に仲の良い兄妹へ還れたのだな、と。好きなシーンになったところで、最後に見せた兄の帰宅を拒む行動は考えさせられます。

この映画は固定したフレームに人間が入ってくる形を取っているので、演技力は必須です。なので、どの俳優も上手です。だからしらけるシーンもありません。

説明しない映画です。情景や少ない台詞から「観客が読み取ってください」という類いです。ですので、実は一人で見るより、複数で。もしかしてデートムービーに良いのかもしれません。但し、このデートもそれ相応の年齢になったカップルという条件付きです。

慎ましく静かに生きることは、実に難しいことを訴えている。時々読みたくなる純文学系の味わい深い映画でした

【東京兄妹の個人的余談】梶浦由記と手塚とおる

この映画を観る気になったのは、もちろん純粋にチョイスしてではありません(笑)

音楽製作家として地位を築いたにも関わらず、事務所とのごたごたで独立せざる得なくなった梶浦由記絡みです。バンド活動から離れた仕事としての第一歩だったらしいからです。
エンディング・ロールに、梶浦由記See-Sawとなっています。当時に足を運んだ観客は、まさか後年になってアニメ絡みで手に取る観客が出てくるとは思いも寄らなかったでしょう。

あと、手塚とおる。映画やテレビにおいても、印象を残している俳優です。怪演する俳優は個人的に気にいるところです。特に『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』において怪獣に負けない存在感は、素敵としか言いようがないほどでした(笑)。