【実相寺昭雄の映画なら】D坂の殺人事件

実相寺昭雄は鬼才だ!そうした声は多く聞かれます。ここで書いている人も「実相寺昭雄はまちがいなく鬼才だ!」と評価している人です。
しかしながら、それに相応しい作品を紹介してくれとなった場合に、はたと悩みます。相手の期待はかなり高いに違いない。かといって、あまりに「いっちゃっている」作品もどうかと思う。成人指定も多数ある。
実相寺監督の感性が遺憾無く発揮されて、なおかつおもしろい(人にはよるとはいえ)。そう考えると、嶋田久作を明智小五郎に配した2作を勧めたい。

1作目『屋根裏の散歩者』についてはこちらです。


今回は2作目『D坂の殺人事件』についてブログさせていただきます。

以下、ネタバレ及び独自解釈による偏見(笑)が含まれますことをご了承ください。製作者などの敬称も略とさせていただきます。

【脚本家は薩川 昭夫】条件が厳しいほうが

実相寺監督の作品といえば、まず取り上げらるのはウルトラマンシリーズで演出を担当した各話である。予算が煮詰まった時に「お金をかけずともそれなりに仕上げることができる」くらいの立場だったようだ。いわゆるローテーションの谷間を埋めていたわけである。
けれどもそれを逆手に取って好きにやっていた側面はあったかもしれない。本質として予算かけたロードショー向けがあまり得意でないように見受けられる。

映画『帝都物語』『姑獲鳥の夏』といった俳優の顔ぶれからして大作が知れる作品であるが、この2作品はやはりどこか物足りない。実相寺監督だからこその演出はあるものの、良かったかと言われたら微妙である。映像は独特なのに、作品自体は平板なのである。

周囲の意見が大きくなる環境は実相寺監督にとっては好ましくないようだ。お金がない分、適当にやらせておけとされるぐらいのほうが断然良さそうである。
他に大きな原因としてウェイトを占めるは、脚本家との相性ではないかと思っている。脚本の出来不出来ではなく、あくまでも相性だと考えている。

相性の良い脚本家として、駆け出しの頃の佐々木守石堂 淑朗(いしどう としろう)。そして後年は薩川 昭夫を挙げたい。庵野監督の諸作品で名のある脚本家だが、映画への初参加は『屋根裏の散歩者』が初めてである。
『D坂の殺人事件』のパンフレットによれば、薩川 昭夫江戸川乱歩の著作など読んだことはないそうである。しかし脚本家として仕事をするために急いで読んだ原作の感想が「自由さ」暖かくて心地良かったそうである。
自分は江戸川乱歩の全集を所持している者である。江戸川乱歩と聞けば、興味が向く。そこで聞かれる表現は「妖しさ」「耽美」「闇」といった類いである。
パンフレットを購入した当時はよく分からなかったが、今なら乱歩に「自由」を感じた気持ちへ理解が至る。薩川 昭夫は、やはり一味違う脚本家なのである。

D坂の殺人事件

【前作と比較の】作品概要

D坂の殺人事件』は1998年に公開されています。前作『屋根裏の散歩者』から、ほぼ4年ぶりといった間隔です。これは長いと見るべきか?自分は長かったです(笑)けれども製作されて良かったなぁ、と安堵したのも憶えています。マイナーな作品ゆえ立ち消えになってもおかしくない。
前作がそれだけ好評だったのだと思います。

前作『屋根裏の散歩者』においてはアパート内で完結していましたが、今回は舞台がそれぞれ用意させています。各主要人物が住まう居室や警察署、店や道路もあります。
上映時間も、前回が74分だったのに対し、『D坂の殺人事件』は90分です。スケールはアップしたようです。俳優たちを影絵のように描写する、また簡単ながらミニチュアにおける状況説明など、これぞ実相寺演出!しかしながらプロデューサー曰く、これら予算ないゆえの苦肉の策であるそうです。
そういえばこれより後の『姑獲鳥の夏』などでは観られない演出法です。

やはり実相寺監督には予算を与えてはいけないのかもしれない(笑)

【屈折の犯人】贋作作り

犯人は真田広之が演じる蕗屋清一郎です。のっけからバラしていますが、倒叙もの、つまり犯人を追い詰めていく過程が描かれる作品です。ここを書いている人の怠慢ではありません。

蕗屋清一郎なる人物は相当腕のいい贋作絵師です。それゆえか屈折しています。依頼された作品は2つ作製して、本物は処分する方針を取っています。自分の名が残らなくても、自分の作品だけを残していく。歪んでいるとしか言いようがない芸術家の矜持です。

さて、持ち込まれたある案件において蕗屋清一郎は苦戦します。「遊女の折檻」という絵の贋作に手を焼き、モデルまで雇いますが、うまくいきません。ところが自分をモデルにしたところ、うまく描けました。
これでいつものように……と思ったら、「遊女の折檻」に実在のモデルがいるという。依頼の女性自身がそうらしい。

本物は消し去る。それが蕗屋清一郎のポリシーです。だから本物のモデルである女性を殺害します。恐ろしいまでの執念です。

殺害容疑で別の人物が挙げられます。しかしながらそれに疑問に思う判事が明智小五郎へ依頼します。
名探偵の登場に犯人も為す術はありません。

【ふたつの原作】そして魅力全開の明智師弟

ストーリーの主に依るところは、『D坂の殺人事件』と『心理試験』2つの原作からです。特にトリックにおいては、ほぼ原作通りと言えます。既出である2つのトリックの噛み合わせた方がとても上手いと思いました。

犯人役真田広之の熱演は見事でした。一線でやっている役者はさすが違う。

だがその一方で犯人ほど出番は少ないものの、さすがは名探偵というより嶋田久作!当初は荒れた明智小五郎から、後に身なりをきちんとし名探偵を職業とした姿を見せます。不思議とどちらもオーラだけは変わらない。容貌魁偉な得体の知れなさは、いくら身なりを整えても変わらない。犯人からすれば、こんなのが来られたら両手を挙げたくなります(笑)

そして登場する、小林少年。演じるは三輪ひとみです。ハリケンジャーの御前様や仮面ライダーカブトのワームやら他にも多数、特撮ヒーロー番組に出演している方です。だけどそれも後のお話し。
まだ映画デビュー間もない頃であり、当時は20歳くらいでしょうか。ゾッとするような美少年ぶりでした。セリフは最後の最後まで吐きません。
そしてセリフの後に、一人残った小林少年が犯人蕗屋清一郎のごとく女性の着物を羽織り、唇に紅を引く幕引き。出番が少ないながら、三輪ひとみが演じた小林少年の貢献は計りしれません。

【次作はなかったが】一番にすすめる作品

嶋田久作演じる明智小五郎三輪ひとみが演じる小林少年の怪しい探偵コンビにおけるこれからの活躍を楽しみにしていましたが、こちらは叶いませんでした。

2005年に『乱歩地獄』において、脚本薩川 昭夫監督実相寺昭雄コンビにて製作はされましたが、こちらはオムニバスであり、そのひとつである『鏡地獄』を担当したにすぎません。明智・小林コンビも配役総入れ替えです。つくづく残念であります。

実相寺昭雄の手腕が発揮されたうえで見やすい映画としては『D坂の殺人事件』を推したいです。ただR-15指定であり、決して幅広い層に訴える作品でないことを最後に明記させていただきます(笑)。