【脚本:薩川 昭夫 監督:実相寺昭雄】映画『屋根裏の散歩者』

ブルーレイにはなりそうもない作品な気がする。劇場公開版で構わないけれど、やはり完全版が出ておりR-18になってしまうしのが痛いか。それとも単なる需要がないだけかもしれない。それでも個人的には江戸川乱歩の映像作品といえば、この『屋根裏の散歩者』次作『D坂の殺人事件』なのです。
このたびは『屋根裏の散歩者』を取り上げさせていただきます。

以下、ネタバレ及び独自解釈による偏見(笑)が含まれますことをご了承ください。製作者などの敬称も略とさせていただきます。

【この作品は】映像化多数です

原作はご存知の通り?江戸川乱歩の短編です。1925年、元号でいえば大正14年の雑誌『新青年』8月号が初掲載です。乱歩という人、自分のデータに対する収集グセがあったおかげで、当時の執筆状態などが分かるので助かります。
執筆は同大正14年6月に大阪の自宅で執筆がなされたそうです。スランプのなか「苦し紛れで書き上げて」だったそうで、殺害方法も無理ありと非難されたようです。けれどもリアルティより、いかに面白くするか。結局は総じて好評であり、何度も映画化されるほどです。

  • 1970年版 監督:木俣堯喬*情報がなし。ソフト化もしていない。たぶん監督の経歴から日活ロマンポルノの一作品かと推測します
  • 1976年版 監督:田中登宮下順子石橋蓮司と有名どころの俳優が出演のおかげで情報が上がったか。こちらは間違いなく日活ロマンポルノの一作。
  • 1994年版*ここで取り上げる作品です。
  • 2007年版 監督:三原光尋 タイトルは『エロチック乱歩 屋根裏の散歩者』製作は、おおっ円谷だ。
  • 2016年版 監督:窪田 将治*「江戸川乱歩エロティックシリーズ」の第3弾だそうです。R-18です。因みに第1弾は『失恋殺人』で、第2弾は『D坂の殺人事件』だそうです。

ほぼ成人指定です。ここで取り上げる1994年版は公開時こそR指定でしたが、完全版でR-18になります。
これは個人的感想ですが、完全版で妖しさを増しても、嶋田久作の怪しさには敵わないと思いました(笑)

【1994年版】屋根裏の散歩者

製作は1992年でしたが、公開は1994年。なかなか時間がかかっております。合成等など画像処理があるわけではないので、単純に配給元が決まらなかったのかもしれません。
配給はバンダイがすることになり、ようやくです。宣伝はとても薄かったです。しかしながら自分には、乱歩実相寺嶋田久作という最強ワードが並んでいたので心待ちでした。

【ストーリー】退屈まぎれの殺人

主人公は三上博史が演じる郷田三郎。ヘビースモーカーで押入れの中で女装してみたりと退廃的な好奇心旺盛の遊民というやつであります。そして何よりも直ぐに飽きてしまう性分です。
とりあえず同アパート住人とはよく集まっては会話に興じているようです。人嫌いではありません。むしろ話し相手に対しては興味津々です。

その中で妙に気になる人物がいます。ただいるだけにも関わらず存在感がやたらある、そうそれは嶋田久作もとい明智小五郎なのです。

郷田明智の部屋へ訪ねるシーンがあります。本だらけの中で二人が交わす会話が、同じ匂いを感じさせます。

そんな郷田がふと押入れの中で天井板が外れていることに気づきます。それを発端にし屋根裏における徘徊が始まります。屋根裏の散歩者です。アパート住人の裏側を天井裏から覗き込む愉しい生活です。

けれども郷田は覗きに飽きてしまいます。
そこで天井裏からの愉しみとして、あまり気に入らなかった遠藤というヤツを殺すことにしました。特に恨みがあるわけではありません。顔に似合わず(演じるは六平直政)女と心中したことがあることを自慢げに話すところが気に入らなかった。ちょっと皮肉屋っぽい性格が気に障るだけです。
相手は誰でも良かったのかもしれません。

なにせやり方が天井裏からモルヒネを垂らすという、原作に添うものの乱歩が非難を受けた殺害方法です。けれどもこの方法はスリル満載です。危ないよりも、成功するかどうかにハラハラどきどきです。
うまくいって死んでくれた喜びを観客にもたらしてくれます(自分だけかもしれませんが)

事件は自殺として片付けられました。とても怖い想いをして、もう変な暇つぶしは止そう……とはならない郷田です。今度は女と変態プレイもどきに興じますが、それも直ぐに飽きてしまいます。

ただ明智がいます。殺害された遠藤の部屋で目覚まし時計が鳴りました。自殺する人間が目覚ましのセットするわけがない。それに何より郷田がタバコを吸わなくなった点に強い疑いを持ちます。

屋根裏へ上がる、明智郷田。事件の真相を確認しますが、明智は警察に告げる気はないと去って行きます。ひとり残された郷田は吸っていなかったタバコをくゆらせます。

【低予算】逆手にとったうまさ

次作の『D坂の殺人事件』におけるインタビューで、はっきりお金がない映画だったとプロデューサーが申しておりました。

上映時間は、74分。完全版で77分。それほど尺が、というより短い映画です。

しかし個人的解釈になりますが、実相寺昭雄監督は大作よりもミニシアター向けみたいな映画のほうが、より監督の色が出ていていい。あまり長尺になる作品は得意じゃないと見てます。
そして何よりも、良い脚本に巡り合うこと。円谷時代は佐々木守がいたように、ここでは薩川 昭夫です。『新世紀エヴァンゲリオン』を始めとする庵野秀明の初期作品群を支えた脚本家です。

実相寺監督薩川昭夫をお気に入りになったようです。次作『D坂の殺人事件』はもちろん、久々のウルトラマンとなったティガの演出回も依頼しています。2005年の乱歩のオムニバス映画の一編も任せております。

いい脚本があり、ウルトラマン撮影時代から「金をかけずにそれなりの画が撮れる」と評判の実相寺ですから良いものにならないはずがない。
ただ誰でも受け入れられる作風ではないとは思います(笑)。

【独特だった】キャストと舞台感

演じた俳優がうまいは当然で、ともかくアクも強いです。
実相寺作品の常連である寺田農堀内正美は無論のこと、六平直政はさすがとしか言いようのない存在感でした。
三 博史は二枚目なのに変な役が好きなことで有名(笑)ですが、宮崎ますみが実は精神を病んでいたお嬢さまを好演しております。

そしてこの『屋根裏の散歩者』と次作の『D坂の殺人事件』で、嶋田久作こそ自分にとっての明智小五郎になりました。

とても忘れられない作品です。

そして忘れられない作品の理由の一つとして、『屋根裏の散歩者』舞台はアパート内で完結します。外へ出ることはありません。外の光景が映し出されることもありません。この密閉感がたまらない、と思ってしまうならば傑作として数えるようになるでしょう。