【MOVIE EDITION】マクロスプラス
「YF-19とYF-21」この機体番号には未だ反応してしまう。忘れられない、というよりちょくちょく手を変え品を変え製品化され続けているマクロスの可変戦闘機である。いくつになっても変形はいい、それが商品化までされる。いい時代になったものである……と締めたいが、手が届く金額で繊細な変形の商品化は難しい側面がありますね。
今回はマクロスの中でも、とりわけ想い入れある『マクロスプラス MOVIE EDITION』に、ちょいOVA版の感想も混じえます。
以下、ネタバレです、独自解釈による偏見もあります(笑)どうか、ご了承のほどを。製作者などの敬称も略とさせていただきます。
ざっとマクロスプラスの概要
『マクロスプラス』はまずOVAとして1994年から1995年にかけて全4巻で発売されました。その最終巻が発売された同年に『マクロスプラス MOVIE EDITION』劇場公開です。なかなか非難を浴びそうな即行さである。この劇場版は20分近くの新作カットが加わっているという、現場にとってはハードとしか言いようがないスケジュールです。
OVAの時間は1〜3巻までは40分、4巻だけは37分。合計で、157分です。
映画は115分の上映時間。
Movie Editionに20分追加であるから、OVAの差異が42分に足して、62分近くの改変作業ですか!すごいです。
このMovie Editionと併映『マクロス7 銀河がオレを呼んでいる!』33分でした。
【タイトル通り】マクロスなんで
『マクロスプラス』を観初めの頃は『超時空要塞マクロス』における美樹本晴彦のキャラデザインが記憶に強いせいか、別作品に捉えていました。作風も従来とは違い、硬質なイメージです。一応は総監督に生みの親の一人である河森正治が名を連ねていますが、監督の渡辺信一郎とキャラデザ担当の摩砂雪がマクロス従来の雰囲気をがらりと変えています。
とはいうものの、超時空要塞マクロスから世界は30年後。人間と好戦的巨人族(ゼントラーディ)の混血設定が重要な意味を為してくるのです。そこに気づくまでマクロスだということを忘れていたくらいです。
【三角関係】大人だ
主人公はイサムとガルドの男ふたりに、ミュンという女性。男ふたりと女ひとりの三角関係ではありますが、想いのベクトルは単純に指しません。男ふたりの友情という要素が事情を複雑化しています。
厳密にいえば、この三人は三角関係ではないのです。
幼馴染でずっと一緒にいながら、どうやら7年前に何かがあったらしく、バラバラになった三人です。二十代半ばの年齢設定が、かつて学生時代だった友人たちと差が出る時期にマッチさせています。
Movie Editionにおいては、三人のなかで一人挫折したミュンの心情から入るよう形です。ガルドは試作機可変戦闘機YF-21のパイロットを務めております。2社競合におけるメーカーの採用争いになっています。そこへ、これまでテストパイロットを何人も病院送りしているYF-19に搭乗することとなったイサムがやってきます。
OVAだと、派手にぶちかましているイサムから始まります。暴れん坊YF-19に送り込まれるだけの無法ぶりが窺えるわけです。ようやくCGが導入されてきたとはいえ中心はセル画の時代です。「板野サーカス」と呼称される目まぐるしいほど戦闘シーンはなかなか凄いです。これだけ見せながら、Movie Editionではばっさりされてしまいます。OVAも観てやってくださいと言いたくなる冒頭部分なのである。そしてやっぱりMovie Editionではいらないシーンでもあります。
【未来を予見】ヴァーチャルアイドル
歌をやめたミュンがプロデュースするのは、シャロンというヴァーチャルアイドル。鑑賞当時はこんなもんにファンが付くのかと思いまいましたが、現在では当たり前です。進歩を侮っていきないと自戒する一件です。
それでも多少の言い訳させてもらえるならばである。シャロンがライブで歌う『SANTI-U』『idol Talk』『The Borderline』なんて、妖しすぎ!アイドルとカテゴライズするならば、いかに初音ミクが健全かよくわかります。
そんなシャロンのライブ開催で惑星エデンに訪れたミュンと、7年ぶり久々となる再会をイサムとガルドはするわけです。ミュンとイサムは何か思惑を秘めた顔つきです。
ガルドだけは一直線!かつてミュンを乱暴しようとしたイサムなんぞに渡してなるものか、と気迫満々です。
心揺れるミュンですがガルドを受け入れます。イサムもチームのオペレーターのお姉さんルーシーといい仲になります。
Movie Editionにおいては30分ちょいの間の出来事です。そして、すんなり収まる恋愛ほど儚いものはないことを教えてくれます。
【夢は】破れるもの
普段は沈着冷静頭脳明晰なガルドではありますが、遺伝の攻撃性があります。抑制剤を飲まなければいけない事実を隠しています。本当は司令官ミラードにバレてますが、パイロットでいたい気持ちを理解する上官なので救われます。
しかしながら訓練中にこの発作のせいでイサムに怪我をさせてしまいます。もちろんガルドにしか真実のところは分からないので、不問になります。
だが悪いことはできません。イサムが怪我したことでミュンがいた堪れずです。ミュンの気持ちに再び火が灯りそうです。
そして更に悪いことにミュンは、パイロットとして夢を追う男ふたりとは違う自分の現実を確認します。
「あんたたちってバカみたい…どうしてそんなに熱くなるの?…
すぐムキになって夢中になってバカみたい…私はもう夢中になれるものなんて無いの…
歌をやめて適当に生きてきた楽だもの…上手く行かなくても言い訳出来るもの」
この言葉にイサムは初めて真面目にミュンへ反応します。向き合ったと言い換えてもいいかもしれません。そしてイサム自身も傷ついたみたいです。
ミュンの言葉は大人になって大抵の者が抱く実感かもしれません。だから恋敵といえる相手でもルーシーは塩を送るような言葉をかけてしまったのかもしれません。
実は「シャロンの中の人だった」ミュンも完全に自立したヴァーチャルとなるため、お払い箱は決定したようです。
ライブが終わり、惑星エデンを去るミュンにガルドがお守りだと音楽プレーヤーを渡します。まだiPodなど考えられなかった携帯プレーヤーに先見性(偶然かもしれないけれど)のセンスを感じます。
飛び立つ飛行船のなかでミュンがかつての自分の曲を、声を聴く。『VOICES』の一節が流れるところの切なさはたまりません。
一方、戦闘機は無人式を採用することになり、イサムばかりでなくガルドも夢を失おうとしていました。
【ここからが凄い】伝説の5秒
ミュンの出立を知らせなかったルーシーは自己嫌悪からイサムより去っていきます。
けれどイサムがそう落ち込んでいるわけがありません。
無人戦闘機のお披露目会に乗り込んでやるため、無断でYF-19に乗り込みます。OVAからたぶん出番が1番に削られたヤンという若手の開発者も同乗です。
それを追うためガルドもYF-21も乗り込みます。
地球へ、防衛システムをかいくぐりつつの大気圏突入するイサムのYF-19。
ここで流れる『INFORMATION HIGH』には熱くなります。ビートが効きながらソウルフルな歌です。
すっかり式典ため集う地球の人々及びシステムは、自我の目覚めたシャロンにのっとられています。
地球に降り立とうかという時に、追いついたガルドとイサムはやり合います。
言い合いながら、会話の内容がだんだんくだらなくなっていきます。悪友同士の話しになっていきます。
けれども戦闘はマジです。真剣な殴り合いだったからこそ、真実をガルドは取り戻します。
ミュンを乱暴した者こそガルドであり、イサムは記憶を消すほどショックを受けていた親友のために一切口を噤んで身を引いていた。
ようやく記憶が甦り現実を受け止めたガルドと打ち解けるイサムです。
けれどもシャロンは暴走。例の無人戦闘機ゴーストを寄越します。イサムにはミュンを救うよう行かせ、ゴーストはガルドが引き受けます。
終盤の戦闘シーンがMovie Editionの真髄です。
OVAではあっさりだったのです。
それがMovie Editionでは「伝説の5秒」と言われるほど凄絶なるガルドの最後です。化け物と呼ぶほど高性能なゴーストへ向けて決死なる姿とイサムへ送る軽口のような最後の言葉。名シーンとはまさにこのことです。
【歌声】VOICES
シャロンの支配力はやはりというか、強烈です。
天才ハッカーである同乗のヤンでさえ乗っ取られるくらいです。なんとか機体から脱出させて難を逃れますが、今度はイサムの番です。ひたすら高く高く大空へ飛び続ける幻想を見ます。
なにもかも策が尽きた囚われのミュンが口ずさむ『VOICES』ガルドがお守り代りにしていたように、イサムも片時でさえ耳から離さなかった歌声です。
この歌にシャロンは敗れるのです。ミュンの歌声に正気を取り戻したイサムが操るYF-19に破壊されます。
OVAにはなかった、最後にイサムがミュンへ近づき肩を抱く。そしてそのままエンディングへつながる『VOICES』感動しかありません。
【OVAもいいところが】このスタッフ
Movie Editionさえ押さえておけば大丈夫だと思います。
ただMovie Editionでは採用されなかったOVAだけのエンディング『After, in the dark』これがまたカッコいい歌なのです。OVAでミュンへ無事な姿を見せたイサム、そこからこのエンディングへ繫がっていくのもまた良いのです。
本当にいい曲ばっかりです。音楽監督の菅野よう子はアニメ音楽へ初参入です。後へ活躍の足がかりはこの作品です。
そして監督デビューであった渡辺信一郎と脚本の信本 敬子が再び組んだときに『カウボーイビバップ』です。凄いものが出来上がるわけです。