【すごい題名である】モヒカン故郷に帰る

2019年3月12日

ついつい借りて観てしまった。きっと「変なのにしたい」衝動が抑えきれなかったのでしょう。もちろん理由はそれだけではない…わけでもない(笑)。そして借りて良かったなぁ〜と余韻に浸るまま書いています。

以下、ネタバレが含まれますことをご了承ください。製作者などの敬称も略とさせていただきます。

【まずは】どうして観る気に?

モヒカン故郷に帰る』は2016年公開の日本映画です。もし洋画だったら、またふざけた邦題をつけやがって、となったところです。
しかしながら、インパクトは充分です。まず手に取った理由はタイトルです。そして、裏面を確認します。

おっ、監督は沖田修一だ。『南極料理人』は良かった、だがそれからこの監督の作品を観たことがない。
しかも配給が東京テアトルというアンダーグラウンド感は、ヒーローものの最終回で興奮している時期にぴったりです。

ここは、いち映画鑑賞家としての姿を取り戻してやろうと思いました。タイトルは『モヒカン故郷に帰る』ですけどね。

【鑑賞中】モヒカンの捉え方

モヒカンである。この髪型から連想する分類としては、まずツッパリ兄ちゃん?でもそれはリーゼントか。だけど夜中にバイクにまたがって大音量で、ぶいぶい言わせているイメージが強いです。

松田龍平演じる主人公の田村永吉はバンドのボーカルだそうです。しかも、デスメタル!
自分、そこそこにデスメタルは聴いております。モヒカンかぁ〜、あまりしている人は見たことはないけれど、いるにはいそう。ただ安っぽいTシャツ姿で、いかにもお金はありませんといった態にリアルを感じます。デスメタル!もうそれだけで売れない音楽のジャンルであります。

けれど、松田龍平はスゴイです。日常では決して発することのないデス・ヴォイスをマスターしております。映画のためならと、人生初のモヒカンだそうです。もっとも、モヒカン久々だ〜と言われたほうが困惑しますが(笑)。

【鑑賞中】おとうさま

舞台は広島諸島です。正確には呉市に当たる下蒲刈島、上蒲刈島、豊島、大崎下島でロケしたものを架空の「戸鼻島(とびじま)」といった離島設定にしたようです。

モヒカン、故郷へ帰ります。同棲していたカノジョが妊娠したため結婚報告として、7年ぶりの帰郷となります。

お父さん役は柄本明が演じる田村治と申します。
久々の再会でしたが、怒ります。カノジョを妊娠させたからという結婚理由も気に入らないところへ、ヒモときては我慢ならなかったようです。情けない息子に怒り心頭です。世のまともな父親なら当然です。

けど、このお父さん「矢沢は広島の義務教育だ」なんて公言するほどです。中学校の吹奏楽部でコーチをしてますが、演奏曲は「アイ・ラブ・ユー、OK」ときます。やらされている中学生の部員たちがダダ引きしております。
熱狂が過ぎて、モヒカン息子に名付けたであろう「永吉」アヴァンギャルドというか、イタい性向は親子二代に渡っていると言えましょう。

このお父さんが癌で余命幾ばくもないことを知った息子が奔走する話しです。
けれどもちっともジメジメしません。むしろ笑えるほどです。そして、鑑賞後に余韻を引っ張ります

【鑑賞後】妙に心に残ったシーン

淡々と流れていく映画です。特に大袈裟に盛り上がることはありません。
それでも最後が近づいたお父さんを連れていく家族の海のシーンやピザ屋三社それぞれの宅配便バイクが競うように走るシーンは盛り上がる、と思いたい(笑)。

そしてクライマックス。お父さんに見せたいため病院で手作りの結婚式を行います。
誓いのキスという最高の瞬間に、お父さん最期の時が突然にやってきます。少々ふざけて書きたくなるほどトリッキーです。監督のインタビューの中にあるように「嘘みたいに死ぬ」が描かれています。

ところで自分個人として、なぜか妙に心に残っている場面があります。

広島カープ好きのもたいまさこが演じるお母さんのシーンです。
お父さんが入院し、永吉たちも去り、お母さんが一人居間でテレビの前で夕飯を食べています。そこへ東京に戻ったと思った永吉たちがいきなりやってきます。観光してきたお土産を出してくる永吉たちに、ろくなものは出せないと言いながらお母さんが台所へ向かいます。
これだけです。ただこうした何てことはない場面がちょっと憧れを覚えます。自分の父親が癌でなくなる前も、こうした何気ない行動が取れる状態で有りたかった。日常の当たり前なんか病気一つで崩れますから。

【では締めは】この監督は注目だ

沖田修一という監督作品は追わねばならぬ、と思いました。

『南極料理人』もそうでしたが、キャスト一人とて無駄がない。役者を見事にはめて演じさせる。
松田龍平や柄本明、もたいまさこが見事なのは分かるとして、モヒカン永吉のカノジョを演じた前田敦子。素なのかと思うくらいわちゃわちゃ感があって良かったです。やはり美女よりも、ちょい頭が抜けた感じの役がいいようです。
モヒカン永吉の弟は、アラタもとい天装戦隊ゴセイジャーでもなく、千葉雄大が頼りないというかアホーな子をイケメンぶりを台無しにするほど演じております(ほめてますよ)。
あとブラスバンドの部員たち。そこはかとなく全体的に漂う、ヤサグレ感が良かったです。

人の死を描くのは大変です。
特に本人たちには大事でも日常風景である家族内における死は、ドラマとして描こうとするとコメディテイストが強い分だけ、お涙頂戴で締めがちになります。それでも悪くないとは思います。

れども『モヒカン故郷に帰る』は、涙でなく何とも言えないじんわりした気分にさせてくれます。癒やされるのは、心大きく揺さぶられるより、むしろこうした作風の作品なのかもしれません。